大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和36年(行)10号 判決

原告 金星自動車株式会社

被告 北海道地方労働委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者双方の求めた裁判

1、原告 「被告が訴外金星自動車労働組合、原告会社間の昭和三六年道委不第二号労働組合法第七条関係事件につき、昭和三六年九月三〇日付でなした命令中主文第一、二項を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2、被告 主文同旨の判決

二、当事者双方の主張、認否

(一)  請求の原因(原告会社)

1、被告北海道地方労働委員会(以下被告委員会という)は昭和三六年九月三〇日訴外金星自動車労働組合(以下訴外組合という)と原告会社間の昭和三六年道委不第二号労働組合法第七条関係事件について

第一項 原告会社は訴外組合の交渉委員が試用中の者であることを理由に団体交渉を拒否してはならない。

第二項 原告会社は訴外組合が昭和三六年一月二五日および同年二月二一日申し入れた団体交渉を行わなければならない。

第三項 (省略)

なる主文を有する救済命令を発し同命令書は同年一〇月二日原告会社に到達した。

2、被告委員会が右命令の理由とするところはつぎのとおりである。

およそ勤労者の団結権は憲法の保障するところであつて、法律に特別の定ある場合を除いては労働組合が自主的に加入できる範囲をきめ、加入を容認したときは、なにびともこれを阻止妨害することができず、このことは例え労使間に労働協約、慣行などにより制限のある場合であつても同一に解されなければならない。従つて本件労働組合法第七条関係事件においても原告会社が主張するように原告会社と訴外組合との間には試用中の者は組合員としないという慣行があつたとしても原告会社が試用中の者が訴外組合に加入することを阻止する正当な理由とはならない、との判断に立つて

(1) 訴外組合が昭和三六年一月二五日原告会社に対し、試用中のものを本採用にすること、ほか九項目の要求事項につき団体交渉の申入れをなし、同年二月六日これが団体交渉をなしたが、原告会社はその席上組合員の名簿が提出されていないことを理由に爾後の交渉を拒否したとの事実

(2) 訴外組合から同年二月一七日、同月二一日午前一〇時より午後六時までの間執行委員会を開催すべくその承認を申し出たところ原告会社は同月二〇日試用中の者が組合に加入することは認めることができないとの理由をもつて試用中の者が就業時間中に執行委員会に出席することを禁止し、ついで同月二一日試用社員である赤丸浩外二名に対し業務命令をなしたとの事実

(3) 更に訴外組合が同年二月二一日原告会社に対し試用中の執行委員が就業時間中に執行委員会に出席することを拒否されたことについて団体交渉の申入れをなしたが、原告会社は従来の慣行に従い試用中の者を交渉委員より除外し本採用の者のみを交渉委員にしなければ団体交渉に応じられないとの回答をなし団体交渉が開かれずにいるとの事実

を各認定し、右各事実は労働組合法第七条第二号第三号に該当するものとして前記1記載のとおりの救済命令を出した。

3、しかし右命令にはつぎのごとき事実の誤認及び法律解釈の誤りの瑕疵がある。

(1) 〔前記救済命令の理由(1)について〕原告会社は一月二五日訴外組合から前記2(1)のとおりの団体交渉の申入れをうけたが、その申入れ書の交渉委員中には従来原告会社、訴外組合間の労働慣行によつて組合員としない試用中の者が含まれていたので、原告会社は二月六日の団体交渉の席上において試用中の者も含む訴外組合の交渉委員に対し右慣行を説明したところ同交渉委員らはいずれも原告会社の右説明を了承したものである。しかして同日は原告会社にとつては訴外組合はいかなる組合員の構成のもとに要求事項を出したのか又その交渉の基礎となるべき訴外組合の組合員の範囲も明らかでなかつたので原告会社は同交渉席上で訴外組合に対し、組合員の名簿を提出してもらいたいとの希望を述べたところ、訴外組合もこれを了承し後日組合員名簿を提出することを確約し、同日の団体交渉が円満裡に終了したものである。

しかるに右経過について前記2(1)のごとく原告会社が団体交渉を拒否したものとした被告委員会の認定は事実誤認である。

仮に右経過が被告委員会の認定したとおりであるとするもおよそ一企業における従業員たる労働者はいかなる労働組合に加入するかは法律に制限されている以外は全く自由であり又労働組合自身もいかなる労働者、従業員をもつて構成するかも同様に自由であることはいうまでもなく、又これらに対し使用者が何らの介入、干渉をなし得ないこともいうまでもないことである。しかしながら労働組合法、労働基準法などの諸法規において或は「労働者の四分の三以上の数の……」とか或は「労働者の過半数で組織する……」などと組合を構成する労働者の員数又は構成状態が労使間の諸交渉において重要な問題とされる場合がある以上使用者側においても交渉相手となるべき組合の組合員数、その構成状態を知ることは必要な事柄といわなければならず、従つて前記団体交渉においても原告会社は右のような必要から訴外組合に対しその組合員名簿の提出を求めたものであつて、それにもかかわらず組合が名簿を提出しないときは原告会社も団体交渉をなしうべくもないのであるからそのことを理由に団体交渉を拒否したとしても正当な理由となるのであつて何ら不当労働行為となるものではない。

従つて被告委員会が右事実をもつて労働組合法第七条第三号の不当労働行為に該当するとなした判断は右条項の解釈を誤つたものである。

(2) 〔同理由(2)(3)及び2前段の判断について〕原告会社は試用中の者の組合加入自体を阻止したことはない。ただ前記したとおり原告会社と訴外組合との間には昭和三一年一一月以来試用中の者は組合に加入させないという労働慣行があるので右慣行により試用中の者の組合執行委員会への出席を許可せず又試用中の者を交渉委員に含む限り訴外組合との団体交渉に応ぜられないとしたに過ぎない。

即ち勤労者の団結権が憲法の保障するところであり又勤労者が組合を結成し、これに加入し、これから脱退することの自由であることは論をまたないところであるが、被告委員会が法律に特別の定めのある場合を除いては労使間に労働協約、慣行などにより制限ある場合においても同一に解されなければならないとしていることは不当である。なぜならば憲法の保障する団結権が労働者の基本的権利として尊重せられ労使間の労働関係を規律する根本のものとなつていることは異論のないところであるが、労使間における労働協約も労働者が右団結権に基き労働契約上の地位の擁護を目的として使用者と団体交渉しその結果生れるものであるからいわば団結権の具体的なあらわれということができる。従つてかかる労働協約は労使互いにこれを遵守すべき義務のあることは当然であつて若し一方がこれを遵守しない場合は他方はこれが遵守を要請しうるものといわなければならない。労働慣行も亦労使間においては右労働協約と同様に尊重さるべきものであつて公の秩序善良の風俗に反しない限り労働協約と同一視さるべきであつてこれなくして労使関係の円満な発達は望みうべくもないこととなる。若し仮に労働協約、労働慣行がある場合にもこれに従わなくてもよいということになれば団体交渉の結果生れた労働協約は全く意味をなさなくなり引いては憲法の保障する団結権も崩壊するに至り又労働慣行も何ら価値なきものとなり労使関係は根底から破壊される結果に陥ることも亦論をまたないところである。

しかして原告会社と訴外組合との間には前記したとおり昭和三一年一一月に試用中の者は組合に加入せしめないとの口頭による約束がなされ爾来右約束は労使間の労働慣行として双方に遵守されて来たものであるところ、昨今に至り突然訴外組合が右慣行を無視し一方的に試用中の者の執行委員会への出席許可を求め、或は試用中の者をも含めての団体交渉の申入れをなして来たので原告会社としては右慣行の趣旨に従つてこれを許可せず又団体交渉に応じなかつたものであつて原告会社の右処置は全く正当なものであつて何ら不当労働行為となるものではない。然るに被告委員会が右事実をもつて労働組合法第七条第二号第三号の不当労働行為に該当するとなした認定及び判断は右条項の解釈を誤つたものである。

4、よつて被告委員会がなした前記救済命令は右のような事実誤認、法律解釈の誤りに基く違法なものであるのでその取消を求めるべく本訴請求に及んだ。

(二)  認否(被告委員会)

請求原因1、2項は認める。同3項は争う。

三、立証〈省略〉

理由

一、1、請求原因1の原告会社と訴外組合との間の昭和三六年道委不第二号労働組合法第七条関係事件につき被告委員会は昭和三六年九月三〇日(1)原告会社は訴外組合の交渉委員が試用中の者であることを理由に団体交渉を拒否してはならない。(2)原告会社は訴外組合が昭和三六年一月二五日および同年二月二一日申入れた団体交渉を行わなければならない。(3)(省略)なる主文の不当労働行為救済命令を発し、同命令書は同年一〇月二日原告会社に到達したこと、

2、請求原因2の右救済命令の理由は、被告委員会は、労働者が組合に加入する自由は労使間における労働協約、労働慣行によるもこれを制限しえざるところであるとの前提に立ち(1)原告会社は訴外組合が同年一月二五日申入れた団体交渉を同年二月六日開いたがその席上で訴外組合の組合員名簿の提出なきことを理由にその交渉を拒否したこと、(2)同年二月一七日訴外組合から、同組合が同月二一日午前一〇時より執行委員会を開くべくその承認を求められたのについて原告会社は同月二〇日試用中の執行委員三名に対しては右委員会に出席することを許可せずかつ同月二一日同人ら三名に対し業務命令を出したこと、(3)更に訴外組合が同月二一日右執行委員会出席の問題につき原告会社に団体交渉の申入れをなしたところ原告会社は従来の慣行を理由に交渉委員より試用中の者を除外しなければ団体交渉に応ぜられないと回答し団体交渉が開かれずにいることの事実を各認定しそれが労働組合法第七条第二号第三号に該当するとしたものであること、

の各事実は当事者間に争がない。

二、従つて以下当事者間の争点につき判断する。

(一)  成立の真正に争のない甲第一号証ないし第四号証、第八号証ないし第一六号証、第一九号証ないし第二二号証、乙第一号証、第六号証ないし第八号証、第一〇号証の一ないし二三、第一一号証ないし第一三号証(但し乙第一一号証、同第一二号証の記載中後述の措信しない部分を除く)、証人佐々木義照、同杉本秀雄、同得本時義、同富山幸一の各尋問結果(但し証人得本時義、同富山幸一の各尋問結果中後述の措信しない部分を除く)並びに前項の争のない事実を総合すると

1  原告会社は札幌市南六条西六丁目に本社を置き昭和三六年九月当時資本金一、五〇〇万円営業車約一一〇輌、従業員約二五〇名を擁しハイヤー、タクシー業を営むものであり、訴外組合は原告会社の従業員をもつて昭和三一年一一月結成された労働組合であること、

2  訴外組合が結成される以前は原告会社には労働組合はなく当時従業員は雇、準社員、社員などの制度により分けられていたのであるが同三一年一一月に訴外組合が結成されるに際し原告会社もこれらの区分制を廃し従業員全員を社員にした上以後は入社する従業員を社員に採用するために一定期間の試用制を採用することに改めたこと、しかして原告会社と訴外組合は同年一一月一二日右の本採用前の試用期間を原則として三ケ月とし若し特別の事由があつて右試用期間後本採用となし得ない従業員については会社と組合は協議するとの協定を結んだこと、なおこの際に原告会社訴外組合間では以後試用中の者は組合に加入させないとの口頭了解がなされ爾来右了解事項は右両者間では労働慣行として取扱われて来たこと、

3  昭和三四年四月に訴外組合は分裂し、訴外組合を脱退した従業員は新たに金星自動車新労働組合を結成し現在に至つていること、同三六年一月当時では訴外組合所属の組合員数は一〇名であり新組合所属の組合員数は約一〇〇名であること、

4  その後原告会社と訴外組合間の前記労働慣行によつて組合に加入しえなかつた試用中の従業員は昭和三六年一月当時には九四名を数えていたが、そのうち赤丸浩外七九名は同月二二日に至り試用中の従業員のみの労働組合を結成し、かつ即日訴外組合に合併し全員これに加入したこと、しかし訴外組合は同日直ちに右試用者組合員も含めて臨時組合大会を開催し、同席上新たな執行委員その他の役員を選出したこと、右により選出された新役員の名簿は翌二三日原告会社に提出されたこと、

5  訴外組合は同年一月二五日新たな組合員構成のもとに賃金一律三〇〇〇円引上げなど一〇項目にわたる要求を原告会社に提出し、同時に右要求事項につき団体交渉をなしたき旨申入れたこと、

6  右要求事項についての団体交渉は同年二月六日午後四時三〇分から原告会社総務部会議室において開かれ、原告会社側からは吉野専務取締役外三名が交渉委員として出席し、訴外組合側からは富山執行委員長外試用中の執行委員二名を含む六名が交渉委員として出席したこと、しかして右席上原告会社は実質的な交渉に入るに先立ち組合側交渉委員には試用中の者が含まれているがこれは前記労働慣行に反するから疑義があると述べ、一つにはこれが確認のためとほかに当時新たに組合員の変動のあつた訴外組合の組合員構成が明確でないからこれが明確化のために組合員名簿を提出するように要請したこと、これに対し訴外組合は組合員名簿は別に二月二〇日迄には提出するが、団体交渉に際し組合員名簿を提出する前例もないので名簿提出とは関係なく団体交渉を始めたい旨述べて交渉を求めたこと、しかし原告会社は名簿の提出あるまでは交渉に応じないとの態度をとつたため同日は何ら実質的な交渉に入ることなく午後五時五〇分打切られたこと、

7  訴外組合は二月一三日原告会社に組合員名簿を提出したこと、もつともこれは原告会社、訴外組合間の昭和三一年一一月一二日の協定第一〇項により原告会社が訴外組合の組合費を所属組合員の賃金よりあらかじめ控除し一括して組合に交付するいわゆるチエックオフ協定により訴外組合が毎月二〇日迄ごとに組合員名簿を原告会社に提出していたという慣行によるものであること、

8  その後同三六年二月一七日訴外組合は原告会社に対し同月二一日午前一〇時より組合執行委員会を開催すべくその承認を申し出たところ、原告会社は同月二〇日前記労働慣行を理由に試用者の組合加入を認めえないとして試用中の執行委員三名に対しては執行委員会への出席を不許可とし、更に同月二一日右試用中の執行委員三名に対しそれぞれ業務命令を発したこと、

9  しかして同月二一日訴外組合は原告会社に対し右執行委員会出席不許可と業務命令の問題について即時団体交渉をなしたい旨申し入れたところ、翌二二日原告会社は団体交渉開催日を同月二四日に指定しながらも同時に組合側交渉委員に試用中の執行委員が加わることは認めえないとして同人を除外した上でなら交渉に応ずる旨回答したこと、

10  同月二四日の団体交渉は午前一一時三〇分から前記会議室で会社側は吉野専務外三名、組合側は一応試用中の執行委員を除いた上富山執行委員長外四名各出席して開かれたものの、席上組合側委員が会社が一方的に組合側交渉委員中から試用中の交渉委員を除外したことを問題とするや、原告会社は逆に前記労働慣行を理由に試用中の者の組合加入は認めえないとして訴外組合が試用者を除外しない限り訴外組合の大会、執行委員会などは一切許可しないし団体交渉も行わないとの態度に出て以後何らの実質的交渉に入ることなく同日午後一時打切られたこと、

11  その後同月二七日にも訴外組合から原告会社に対し前記一月二五日付要求事項などについての団体交渉の申し入れがあり原告会社は同年三月一日これに回答したが原告会社は依然として訴外組合が試用中の組合員を除外しない限り団体交渉に応じない旨の態度をとつていること、

の各事実を認定することができ、乙第一一号証、同第一二号証の各記載及び証人富山幸一、同得本時義の各尋問結果中右認定に反する部分は措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二)  1 原告会社は前記二月六日の団体交渉は同日円満裡に終了した旨主張するも当裁判所の認定したところは前記(一)56のとおりであつて同交渉は一月二五日付の訴外組合の要求についての交渉であつたが原告会社が名簿提出を要請しこれがなされなければ団体交渉に応ぜられぬとしたため打切られたものであるから原告会社が団体交渉を拒否したものと認めうる。

2 次に原告会社は仮に原告会社が右二月六日の団体交渉を拒否したとしても訴外組合が組合員名簿を提出しない限り右拒否は正当な理由によるものであつて不当労働行為にはならないと主張する。

前記(一)6の認定事実からすれば原告会社が訴外組合に対し二月六日の交渉席上組合員名簿の提出を求めたのは(イ)訴外組合は原告会社との試用者を組合に加入せしめないとの慣行に反し試用中の執行委員を交渉委員としている点で疑義がありこれが確認のためと(ロ)訴外組合は試用者の加入により従来とは大幅に異つた構成となつているがこれが明確化のためであつたことが認められる。

しかして右(イ)点については訴外組合は前記労働慣行に反しているとしてもなお組合結成の自由を有するものと解すべきこと後記(四)のとおりであつて、これにつき原告会社が組合員名簿の提出を求める理由はない。しかしながら右(ロ)点については当時訴外組合は一月二二日の臨時大会とともに試用者の大量加入によつてその組合員数がそれ以前の一〇名から一躍一〇〇名近くへと大幅に増大しておりかつその新たなる構成についても何ら通告もなかつたのであるから原告会社としてはその組合員構成が明確でなかつたことが覗われる。しかも前記一月二五日付要求事項はそのいずれもが交渉に際して訴外組合の構成員数に重要な関係を有するものであるから、原告会社としては右交渉に入るに先立つて訴外組合の組合員構成を明らかに知つておく必要性はあつたものと認めうる。従つて当時の段階としては原告会社は組合員名簿の提出を求める理由がありかつ右名簿の提出あるまで団体交渉を拒むことは正当な理由によるものと云いうる。

しかしながら前記(一)7で認定したとおり訴外組合は二月一三日それがいわゆるチエックオフのためではあるが原告会社に組合員名簿を提出している。そうすれば原告会社としてはその時からは訴外組合の組合員構成を充分知りえたものといいうるので同日限り右(ロ)の名簿提出要請の必要性は消滅したということができる。

従つて原告会社が右二月一三日以降なお訴外組合の名簿提出なきことを理由に団体交渉を拒むのは労働組合法第七条第二号にいう不当労働行為に該当する。

(三)  次に原告会社は同年二月二〇日訴外組合の執行委員会開催につき試用中の執行委員三名に対し委員会出席を不許可にしたこと及び同月二一日同人らに対し業務命令を発したことは本採用の執行委員についての出席を承認している点並びに前記各認定事実から見てそれは同試用中の執行委員らの組合活動を阻止する意思のもとになされたこと引いては同試用者らの組合加入自体をも阻止せんとしたものであることが認められる。なお右の点につき前記労働慣行が存在するといえども原告会社の処置を正当ならしめるものではないことは後記(四)のとおりである。原告会社の右処置はいずれも労働組合法第七条第二号の不当労働行為に該当する。

(四)  最後に原告会社は同年二月二一日附の訴外組合からの団体交渉の申し入れにつき訴外組合の交渉委員から試用中の執行委員を除外しない限り団体交渉に応じないとしたのは労使双方を拘束する前記労働慣行によるものであつて右拒否は正当な理由によるものというべく何ら不当労働行為にならないと主張する。

一般に労働慣行が労使間に存する場合にはそれが公序良俗に反しない限り労働協約と同様に労使双方ともこれを遵守しなければならぬことは原告主張のとおりである。しかしながら他方労働者の団結権即ち労働者の組合結成組合加入の自由は他の団体交渉権、団体行動権とともに労働者の基本的権利として憲法上強く保障されているところであり、右権利はそれが特に労働組合の本来の目的からと公共の福祉の立場からとそれぞれ法律をもつて制限している以外は全く労働者自身の自由に委ねられているところであつて何人もこれを制限、禁止することのできないものである。しかして右団結権は他の団体交渉権及び団体行動権とともに労働者を保護する目的を有するものであつてともに強行法規たる性格を有するものといわなければならない。従つて右権利を制約するが如き労働協約ないしは労働慣行はいずれもその効力を認めえないといわなければならない。

しかして原告会社と訴外組合との間には昭和三一年一一月の口頭了解以来試用中の従業員を組合に加入させないという労働慣行があることは前記認定のとおりである。しかしかかる労働慣行もそれが強行法規たる前記団結権と抵触する限り右慣行は公の秩序に反するものとしてその効力を認めることはできない。そうすれば原告会社が訴外組合が右慣行に反して試用中の従業員を組合に加入せしめかつ試用中の執行委員をもつて交渉委員としたことによりこれを理由に団体交渉を拒否するのは、結局右慣行が無効としてその拘束力を認めえないのであるから、交渉拒否の正当な理由とはなり得ないものである。従つて原告会社の前記二月二一日附の申し入れに対する交渉拒否は労働組合法第七条第三号の不当労働行為に該当する。

三、以上の当裁判所の認定及び判断によれば被告委員会の各認定及び法律解釈はいずれも正当であり右認定及び解釈に基き被告委員会が発した前記不当労働行為救済命令も何んらの瑕疵がなく適法である。

従つて原告の本訴請求はいずれもその理由がないことに帰するので棄却する。なお訴訟費用については民事訴訟法第八九条を適用して原告の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 石井敬二郎 長西英三 福島重雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例